【vol.13】 Gucchi’s Free School主宰 降矢聡さん

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【プロフィール】降矢聡(ふるや・さとし)早稲田大学芸術学校の非常勤講師を経て、現在、映画配給やイベント上映を行うグッチーズ・フリースクール主宰(教頭)になる。共著に『映画を撮った35の言葉たち』、『映画監督、北野武。』(ともにフィルムアート社)『映画空間400選』(INAX出版)、映画脚本に『TREEHOUSE』(三宅唱監督)など。そのほか、映画雑誌やプログラム等に映画評を執筆している。

グッチーズ・フリースクールの主宰である降矢聡さんが登場。リチャード・リンクレイター監督の幻の初期作『スラッカー』やデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督の長編処女作『アメリカン・スリープオーバー』など、それまで日本では未公開であった作品を選定、配給する活動を行う降矢さん。グッチーズ・フリースクール、そして降矢さんの活動があったからこそ私たちはこれらの作品を鑑賞する機会を得ることができた。今回は、そんな降矢さんの自主上映、配給活動を中心に話を聞いた。

こういう作品があったんだと興味を持ってもらえるような活動をしていきたい

――グッチーズ・フリースクールを始めたきっかけを教えてください。

もともと映画が好きでした。映画を観始めたのは中学生くらいからで、大学(早稲田大学)に入学してからは映画サークルに所属していました。サークルは映画をつくる人と観て語ったりする人にざっくりと分かれていて、僕は観て喋る側でした。
学部を卒業するときに就職するか、映画の大学院に行くか考えていて。一度、院も受験したんですけど途中から「やっぱり止めようかな」と思って、どうしようかと考えた時に建築を学ぶことができる早稲田の芸術学校に入学することを考え始めました。そこには鈴木了二先生という方がいて、以前から建築はもちろん映画についての本を執筆したり講演会をしているのを知っていました。
僕は鈴木先生のファンだったので、建築もやりつつ映画についても片足を突っ込めたらいいなと(笑)。なので最終学歴は、建築を学んだということになっています。在学中、頭の中は基本的に映画について何かやりたいなと思っていて、その時から映画評みたいなものも書かせてもらえるようになりました。ただ二、三か月に一回声がかかる程度だったので仕事になるような感じではなかったです。一方で建築の学校も卒業間近、いよいよどうするかとなって、映画について何かやりたいと思う気持ちは続いていたので、就職はせずにフリーターになりました。
僕は映画についてのあらすじや背景を調べるときに、詳しい方が書いた未公開作品についてのブログを読むことがあって。海外の未公開の映画、日本に入って来ていない作品を紹介することに関して自分も何かできないか、自分も楽しんでいるからこういうのを求めている人がいるだろうと考えるようになりました。そして仲間二人に声をかけてグッチーズという未公開作品を紹介するサイトを始めました。
ある日、東京藝大のプロデューサーコースに通っていた後輩から藝大で行う上映会企画の相談があったので、サイトで取り上げていた『アメリカン・スリープオーバー』(2010)の上映を提案したら、面白そうだねということになり上映会を実施しました。この時がグッチーズとして初めての上映会でした。

――芸術学校はどのくらい通っていたんですか?

はじめ二年コースに通っていたんですが、ずっと映画の話をしていたので何も身に付かず。学校は素晴らしい学校なので、僕が悪いんです(笑)。図面もろくに描けない状態だったので、コースを延長して三年在籍しました。

――グッチーズとして配給という活動を始めたのはいつからですか?

配給は去年2017年に『スラッカー』(1991)、『アメリカン・スリープオーバー』、『キングス・オブ・サマー』(2013)と三作品の配給から始めました。

――東京藝大での上映は配給をする前に行われたと。

そうですね。2014年の3月頃です。あの時は、三日間の上映会で三回上映するだけの権利を取得していました。配給する権利は持っていなかったんですが、イベント内での評判が良くて「もう一度観たい」とか「ウチの映画祭で上映したい」という声をいただきました。以降の上映についてはその時その時で権利を取得して上映したり、上映を行いたいと言ってくれた人に権利元を紹介したりしていたんですが、観たいという声も多かったので長期の権利を取得しました。それが初上映から二、三年くらいでした。ロードショーというかたちで都内中心に上映を行いました。

――『アメリカン・スリープオーバー』Blu-ray/DVD化にあたってのクラウド・ファウンディングでは上映権付のコースなどがあって面白い取り組みだと感じました。

素人なので未だに配給する時の劇場さんへのアプローチも分かっていなくて…。ただ、この映画を好きな人達に色んなところで上映してほしい、多くの人に観てもらいたいなと思って考えました。自分の力が及ばないところでも、気に入ってくれた人たちの力で『アメリカン・スリープオーバー』が拡がっていけばいいなという気持ちでした。最終的にはそういうこともまた宣伝になるだろうとも考えていました。

――『アメリカン・スリープオーバー』や『スラッカー』(1991)の上映・配給を通して、Homecomingsやイラストレーターのサヌキナオヤさんらアーティストとの関わりも多いように感じました。

Homecomingsさんもサヌキさんも本当に良くしてくれるんです。映画をとても好きな方々ですし、いつも映画についてHomecomingsさんやサヌキさんでしか語れない言葉で語ってくれて、ありがたいかぎりです。また、大阪を中心に活動・活躍されているナインストーリーズさんという方が上映イベントの際に、映画からインスパイアされたアクセサリーなど関連グッズを毎回作っていただいており、映画ファン以外の方にもアピールしてくれていて、本当に助かっています。

――『スラッカー』はどういうことがきっかけで上映を決めたんでしょうか?

毎年一回、上映会を開くということを目標にしています。一番最初が『アメリカン・スリープオーバー』、次が『キングス・オブ・サマー』で、三年目の2016年が『スラッカー』でした。『スラッカー』は青春映画学園祭という青春映画を六本くらい集めた企画の一本として上映しました。
『スラッカー』はアメリカ・インディペンデント映画のなかで一つの転換点となった重要な作品だと思っています。なので上映することに、たんに映画が素晴らしいというだけにとどまらない意味があるとは感じていました。もちろんリンクレイター映画ファンのなかでも気になっている方も多いだろうな、とも。
その時は『アメリカン・スリープオーバー』同様に一回のみの上映で考えていたんですけど、上映してみたらすごく人気で、色々な方から上映できないかと声をかけていただきました。ちょうどリンクレイター監督の『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』(2016)が日本公開される直前ということもあって、上映したいと言ってくれる劇場さんが多かったんだと思います。
いまだにびくびくするんですが、権利を取っても劇場さんがかけてくれないとどうしようもなくて。かけてくれる劇場が多いなら権利を取っても大丈夫だと思ってすぐ権利獲得の作業を行いました。

――海外の権利元との交渉は降矢さんがご自身でやられているんですか?

僕より英語が堪能な知り合いがいるので助けてもらっています。理解できないことがあったら、そういう人達に相談しながら進めています。

――権利の所在を探すことは大変そうですが。

実はどれもスムーズで、そんなに難しいことはなかったですね。『アメリカン・スリープオーバー』の場合は、カンヌ映画祭に出品されていたので、カンヌのサイトを見て「セールス・エージェントはこちら」と書いてある連絡先に連絡しました。『キングス・オブ・サマー』は制作会社を調べて連絡しました。だた、中には連絡がつかないこともありました。

――権利処理の作業はどのように進めていくんでしょうか?

一回上映の場合は、物々しい契約書みたいなものは交わさなくて、メールのやり取りだけで完結してしまいます。インボイスを送ってもらって、料金を振り込んで確認がとれたら上映する流れです。
長期の上映になるとオールライツで買うことがあって、ソフト化もできれば、配信権もという話になると数枚の契約書が送られてきてサインするという流れになります。契約書は英語なので、英語が分かる知人に相談して変なことが書かれていないかなど確認します。専門知識が無くて困ったと思うことはあんまり無かったですね。
どうしても意味が分からない文言があるときは業界の知り合いに聞いたことが数回ありましたけど、やってみたら案外できるもんだなと感じています。

――こういった降矢さんの活動やお話を見聞きして、自分たちも上映をやりたい!と行動する人が増えそうですね。

同じような活動をしたいと考えている人は多いんじゃないかと感じていて、ハードルも下がればいいなと思っています。今度、『タイニー・ファニチャー』(2010)という映画を上映するんですが、この作品も初めはイベント上映を行いました。その時は団体、個人問わず自主上映をやりたいと思っている人たちに声をかけたら四、五組集まって。ほとんどの人が字幕を付けたこともないし、権利交渉もしたこともないって方たちだったので、僕たちのやり方を共有しました。
それ以降も質問があればメールで「この作品はどうやったら上映できるか?」と聞いてもらえば、分かる範囲でお教えするということをしていて、皆さん無事上映できています。中には学生の人もいて、その方は一人で上映できていました。もちろん作品によりますが、やろうと思えばこういった活動はできると思います。ただ、集客の問題はネックになってくるので大変なんですが、それぞれが色々なところで上映をすれば、未公開映画の上映イベント自体が盛り上がっていくと思うんですよね。例えば、宣伝もそれぞれの団体が協力しながら行って広げていくのもありかなと考えています。

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――いま、グッチーズは何人くらいで運営しているんですか?

正確に言うと僕一人なんです。プロジェクト毎に周りに声をかけてやっています。『タイニー・ファニチャー』だと僕の他に三人くらいが協力してくれています。

――グッチーズにおける降矢さんの肩書きが教頭だったので校長もいるのかと思っていました。

校長も少し前までいたんですけど、今は休職中です(笑)。

――いまの降矢さんの映画における活動は何がメインになっていますか?

いまはやっぱり配給ですね。

――グッチーズの他にお仕事をされたりしているんですか?

フリーターなのでバイトをしながらグッチーズの活動をしています。

――配給もやりながら二足の草鞋というのは大変ではないでしょうか。

配給を始めたり、上映会前は多少忙しくなりますね。上映したい作品を探しているときは、言ってしまえば映画を観ているだけなので忙しくないんですが、いざ劇場が決まって宣伝をしていくということになると忙しくなってきます。大手の配給会社さんであれば宣伝会社に委託すると思うんですが、僕たちは資金力がないので自分たちの出来る範囲でプロモーションをしていくしかないんです。ノウハウもまだないので、試写ってどうやるんだろう?というレベルで。なので忙しくなっちゃいますね。ただ、どれくらい忙しくなるかは自分次第なので、嫌にならない程度の忙しさでやっていこうと心がけています。なにより楽しくやりたいと思っているので。

――ノウハウがないからやめるのではなく、手探りでやっていきその過程で形になっているのがすごいと思います。

形になってるのかどうか、かなり微妙なところですよ(笑)。金銭的な面でいうと破たんしていることもあります。配給自体は基本的に黒字になっていますが、作業が多いので時給換算したらどうなんだっていう感じです(笑)。

――映画『タナー・ホール 胸騒ぎの誘惑』(2009)が10月3日にDVDリリースになりますが、降矢さんも上映をされたとお聞きしました。

『スラッカー』を上映したときの青春映画学園祭というイベントで『タナー・ホール』を上映しました。五、六本ある作品の中でもかなり人気で、やっぱりルーニー・マーラとブリー・ラーソンの組み合わせが良かったんだと思います。ちょうど『ルーム』(2016)でブリー・ラーソンが有名になっていた時期で、ルーニー・マーラも絶対的な人気を確立していたので。

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映画『タナー・ホール 胸騒ぎの誘惑』
©2009, BY Two Prong Lesson, LLC

――『タナー・ホール』はどういう理由で選定されたんですか?

この作品は女子寮を舞台にした映画なんですけど、そういう作品が好きなんです。女子寮ものというジャンルが一つあるなと思っていて。青春映画学園祭というくらいなので、バカみたいなコメディだったり、ラブ要素があるもの、親への反抗ものだったり、バラエティにとんだラインナップに出来ればいいなと思って、その中に女子寮ものがあるといいなと思いました。
俳優さんの魅力を撮るというのは青春映画の一つの大きな要素だとも思っています。過去、僕が観た中でルーニー・マーラが一番可愛く撮れてるのが『タナー・ホール』だったんです。しかもあの時期にしか撮れないものが映っていて、これはいいんじゃないかと思って選びました。
ブリー・ラーソンも良くて、『ショート・ターム』(2014)や『ルーム』のときは母や守る存在の女性として描かれていましたが、『タナー・ホール』のちょっと不良な感じは新鮮ですよね。こういう役もやってたんだって。

――降矢さんはグッチーズのサイト内で映画のレビューもやられていて、先日『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2018)のレビューを拝見しました。写真家スティーヴン・ショアの作品を想起させる大地と空という部分が興味深かったです。

『フロリダ・プロジェクト』は、空と地面、特に空ですよね。あんなに広い空を映画で観ることが最近は少なくなってきている気がして、それだけで画面に圧倒されてしまったというのが第一印象でした。『タンジェリン』(2017)のときもバッと抜ける空を撮っていて、ショーン・ベイカーは空を印象的に見せる監督だなと思っていました。特に『フロリダ・プロジェクト』は物理的に背の低い子どもたちが走り回るので、そういった要素がより前面に出ていたなと感じました。
その前の『チワワは見ていた ポルノ女優と未亡人の秘密』(未公開)では空とか周りの環境との印象というのはなかったんですが、『タンジェリン』から「いま私達がいるこの場でどう生きていくか」というテーマが画面上でも物語でも描かれているなと感じました。
『フロリダ・プロジェクト』では遠近感がちょっと狂うみたいな、地面では道路のパースが凄く効いていて、雲の量感がグッと画面から迫り出している感じがなんとも言えない場になっていて。そこで子どもたちがある時は大映しになっていたり、ある時は建物との比率からするとすごく小さくなっている。そういう空間の中で、いい意味で浮いているような、そこで人物たちが躍動する姿が捉えられていました。
これって実際にフロリダのあの場所に行ったとしても、もしかしたら感じることができないかもしれません。それは映画だからカメラだから、それが適切な距離感や技術によって映しとられたからこそ感じることができるのかなと思っています。これって映画にしかできない表現ですし、それによってフロリダという土地の不思議さと子ども達の生き生きとした感じが、もしかしたら実際に行くよりも胸に来るものになっていて、純粋に映画の力を感じた作品で大好きでした。

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映画『フロリダ・プロジェクト  真夏の魔法』
©2017 Florida Project 2016, LLC.

――今後の降矢さん、そしてグッチーズとしての活動について教えて下さい。

今は8月11日に公開される『タイニー・ファニチャー』に集中しているところです。この作品は、『アメリカン・スリープオーバー』が批評家賞を受賞した年のSXSWでグランプリに輝いた作品です。ドラマ「GIRLS/ガールズ」のレナ・ダナムが一気にスターダムに駆け上がるきっかけにもなりました。インディペンデントから自分がどう生きていくか、どうアプローチしていくか、そういう流れを作ったレナ・ダナムに共感する部分があって、インディペンデント的な自主上映という活動をしている身としては、これをやることに意味があるんじゃないかと思っています。
昔の作品であっても観たいという人はたくさんいるし、映画の良し悪しは変わらないので、最新作ばかりではなく、実はこういう作品があったんだと映画ファンの皆さんに興味を持ってもらえるように活動を続けていきたいです。
あとは、12月にコメディ映画祭というのを企画していて、いま何本か作品が集まってきています。それも新作はほとんどなく旧作のみで、日本ではなかなか観られない作品を上映する予定です。
また今後は、配給作品を増やしていきたいと思っています。一回上映だと赤字になることもあるので、長期で配給・上映できる作品を年に2~3本にしていければ理想的ですね。ただし、お金を回すためにやっているわけではないので、やたらと忙しくなるのもイヤなので、自分のペースでできる範囲が一番ですね(笑)。
僕の中では配給作品の上映と映画祭などのイベント上映は違うもので、配給作品はより多くの人に届くような間口の広さが要求されるんですが、一回限りのイベント上映は一回だけならお客さんが付いてきてくれる作品を上映することができます。だからイベント上映も続けていきたいんです。イベント上映もやりつつ配給作品を増やして回せるようになるのが目標です。

(撮影協力=アップリンク渋谷)
(取材・文=加藤孔紀)

映画『タイニー・ファーニチャー』 https://www.tinyfurniture-jp.com/
8月11日(土)よりシアター・イメージフォーラム(東京)
8月18日(土)~9月7日(金) 出町座(京都)
9月 第七藝術劇場(大阪)にてロードショー!

映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』DVD&Blu-ray 10月3日(水)発売!
https://bit.ly/2n9Tjxz

映画『タナー・ホール 疑惑の胸騒ぎ』DVD 10月3日(水)発売!
http://www.tc-ent.co.jp/products/detail/TCED-4172

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